希望未来幸せそれに類するもの

部屋の中では死んだように生きていた。塾講のバイトが21時30分に終わって家に帰ってからは、自炊する元気も気力もない。適当にテイクアウトを買って帰るかコンビニで買うか。自炊するには何段階かの気力のステップが必要で、それはキッチンの水道をひねることであったり、パッケージの袋をちぎったり、久しぶりに使う調理用の箸を水で1度洗ったりすることである。だから、夜を光の線として縫い付けていく乗り物に約30分揺られたあと自宅の最寄り駅に到着した私の右手にはその日の戦果のようにその日の食糧が入ったビニール袋が下げられている。

階段を4階まで上り、ガチャガチャとした鍵を取りだし、スマホのライトで鍵穴を照らし、鍵をひねる。当然ただの深刻な暗闇が眼前には広がっているだけなので、廊下の電気をつける。居間に入ってすぐの便利なところに居間の電気をつけるためのリモコンを置いてあるから、それもつける。右手にかかっていたビニール袋を机に置く。着ていたコートを乱雑に放る。着替え一式とバスタオルを取り、洗面所に行き、手を洗い、コンタクトを外し、靴下を脱ぎ、服を脱ぎ、シャワーを浴びる。ビニール袋の中身(その日は牛丼)をレンジに入れ温める。テレビのリモコンをロフトベッドの2階部分に置いてあるのでそれを1階から手を伸ばして取り、つける。テレビを見るために座椅子に座ろうとすると温めが終わったレンジが鳴るので、座らずに立ち上がり牛丼を取り出しに行く。意外と熱い牛丼に驚きながらもそれを左手に持ち、右手ではレンジを乗せてある冷蔵庫からコーラ(缶)を取り出す。座椅子に戻り、ローテーブルにそれら食糧を乗せ、テレビを見ながら食べる。テレビは別に、音として流れているだけで楽しいのでスマホYouTubeを流す。18時更新のチャンネルが多いから、バイトをしている間に新しい動画が出ていると思うと頑張れたそれを観る。食べ終わると容器をビニール袋に入れて、封をする。歯を磨いてロフトベッドの2階に上がり、適当に本を読んだり友達に電話をかけたりする。そんな調子で深夜まで起きているから、次の日起きるのが午後になる。起きた時の感覚で午後だというのはわかるが、大事なのは時刻の1〇時の〇の部分(6だと死んでる 5でも厳つい バイトに間に合うか)なのでそれをスマホで確認する。15時だと判明するので急ぎめに準備をしようと思う。枕元に置いてあった目薬を点し、フェイスシートで顔を拭き、点鼻薬を吸入する。暖房をつける。ワイヤレスイヤホンを耳にいれて音楽を流しながらロフトベッドを下りる。歯を磨く、髪型を整える。パジャマを脱いで洗濯機に入れる。外に出るための服を着る。持ち物をチェックし、暖房を消し、買い置きしていたペットボトルの水を350mlくらい飲んで外に出る。ぐっと力を込めてドアを押すと、外気が一気に部屋に流れ込んでくる。それと同時に外からの光が差し込む。光の世界だ、と直感的に思う。外の新鮮な空気が鼻を揺らしてくる。身体を部屋の外に放り出して、右手でポケットをまさぐり鍵を取り出す。昨日と同じコートだから鍵は入れっぱなしにしてあった。鍵を閉める。ふと、
(6時間後か)
と思う。今日は弁当にしとこう。オリジンのやつ。この曲聴き飽きてんだよな飛ばそ。あー鼻かゆい。電車何分後だっけ、ちょっと走るかな。