フィギュアスケート・ペット

フィギュアスケート

コント

男:週刊誌の記者

女:10年前にプロフィギュアスケーターだった

(机 椅子)×2 向き合う感じ 斜めにセット

 

男「…本日はお時間をいただきありがとうございます。週刊文旬の山村です。引退後5年経った今の篠原選手のお考えや現状をありのまま伝えるべく記事を書かせ」 

女「御託はいいからさっさと始めてくれない?」

男「あっ、はい、かしこまりました…それでは…まずは現在の率直なお考えをお願いします」

女「…今でも自分がやったことは正しかったと思っているわ。勝つためにやったことだもの。プロスポーツ選手として、勝利のために小さい頃から練習してきたから。本番でも勝ちたいって思うのは自然なことでしょう?」

男「その通りです。……その、篠原選手の、いわゆるドーピング事件の前と後で周囲の人からかけられた言葉などあれば」

女「…母親には「縁を切る」って言われたわ。あの人が始めさせたのにねこの競技。3歳の私に、自分の夢を託すように無理やり習わせ始めたのを忘れたかのように(おもむろに立ち上がる)」 

男「……大変でしたね。当時の報道も加熱してましたから。……前代未聞のフィギュアスケートでのドーピング」

女「……ええ」

男「前代未聞の空中13回転」

女「……効きすぎたのよ」

男「浅田真央選手はその13回転に衝撃を受けて現役を引退されました」

女「当時の風潮だったのよ、「回れるもんなら回った方が偉い」って」

男「にしてもってことですよね」

女「……男性ホルモンが一般的な成人男性の7倍あったからできた投与量だったのよ。……本当に、人生めちゃくちゃ。知ってる? 私が空中で回ってる動画、YouTubeで350万回再生されてるのよ」

男「めちゃくちゃ回ってますね」

女「は?」

男「あっいや」

女「……「人間ベイブレード」ってコメントしたヤツ本当に許さないから」

男「あっそれ自分です」

女「何してんの? あと固定したチャンネル主も許さないから」

男「あっそれも自分です」

女「自作自演じゃないの」

男「あと、個人的には回転早すぎて止まってるように見える瞬間が好きで」

女「これでしょ(直立したままジャンプ)」

男「それです、サービスいいですね」

女「……こうでもしなきゃやってらんないの。フィギュアなのにドーピングした女、って肩書きは一生ついてまわるのよ」

男「まわる……?」

女「食っていくためになんでもしたわ、特技のギターを活かして全国のスナックをどさ」

男「回りでしょ。さっきから回るって言ってるじゃないですか、上手いこと言うみたいに」

女「ディナーショーのMCの仕事もたくさんやってやったわ、としたら?」

男「……舌が回る仕事で場を回したってこと…ですか?」

女「……回ってるわね」

男「頭が、ですよね。いやこの人全く反省してないな。「としたら?」って出題してきてるし。何してるんですか? 記事になるんですよこのやりとり」

女「(男の周囲をゆっくりと回りながら) ……気づいたの、私結局、回転ってものが好きだったって」

男「何言い出してんですか」

女「ドーピングしてでも回ったあの13回転、今思い出しても脳汁が出るのよ」

男「あんまフィギュアの人が脳汁とか言わないですよ、あとなんですかこの状況、人力でサラウンド音響みたいになってる」 

女「……誰もあの時の私の気持ちなんてわかんない。私の身にもなってみてよ」

男「尿検査ひっかかる体になるだけでしょ、というかさっきから水飲みすぎじゃないですか? さっきから、というか最初から。もしかして、まだドーピングしてます?」

女「力溢れてたまんないから1発殴らせてくれない?」

男「絶対やってるよ」

おわり

 

「ペット」

旅行に行く友達から預かってたペットを逃がしてしまった

男:旅行に行ってた

女:ペットを預かってた


場所:女の家


(外出から帰ってきて、荷物を置きながら)

女「ふー…… ただいま〜 うっわさっむ、窓開けっ放しにしてたんじゃんやらかした」


女「そうだ、自分のご飯作る前にピーちゃんのあげなきゃね 」


(棚から餌を取る動き)


女「1週間目ともなると一発で計量できちゃうんだよね、さっすが私。餌そろそろ無くなっちゃうけどまあ今日までだしいっか」


(皿を持って運ぶ)


女「さ〜てピーちゃん、ご飯ですよ〜 「どうせだし全部入れたれご飯」ってことで普段の1.5倍大サー、ビ……?」


(一瞬動きが止まる、辺りをキョロキョロと見回す)


女「……えっ? 居ない?」


(さらに周囲を探す ダメ元で炊飯器もあける)


女「いや炊かれてたところで 嘘鶏飯 言ってる場合じゃない」


女「えっ……いやいやいやいややばいやばい、もう迎えに来るよねアイツ、やばいって、友達から預かってたペット逃がしちゃった」


女「……どうしよう、えっまだ遠くに行ってないかな」


(ケージの中を触る)


女「体温とかわかんないわ 鳥だし 変温動物だし」


女「えっ…………買うとしたらいくらすんの? 3万とかで買える?」


(ピンポン音が鳴る)


女「うわうわやばいやばいやばい どうしよう えっ ブチ切れられちゃうやつでしょ」


(もう一度ピンポン音が鳴る)


女「……出るか、えっマジでどうしよう」


(玄関まで行く、開ける)


男「おっ開いた、久しぶり〜! いやお前の顔みたらめっちゃ帰ってきた感じあるわ、安心しちゃった」


女「……それ留学とかで一年アメリカ行ってたとかで言うやつでしょ、1週間の熱海じゃん」


男「珍しいよな、熱海に1週間行く奴。まぁほとんど仕事だったんだけどな。土産話あるんだよ」


(男、自然に部屋に入ろうとする)


女「ちょちょちょ、まず土産話って言葉はやっぱり最低半年は空かないと使っちゃいけなくて、んで部屋には入っちゃダメ」


男「えー! なんでだよ、座らせてよ。ピーちゃんも引き取らないとだし。あっもしかして同棲とかしてる?」


女「んーーーいや同棲というかむしろ逆同棲というか」


男「逆同棲? わかんないけどとりあえず入るね おじゃましまーす」


(さっきより強めに部屋に入ろうとする)


女「ちょちょちょ! ダメ!ダメ!」


(男、部屋に入る 後ろから続いて女も)


男「なんだ、普通じゃん 片付いてるし なんだったんだよ」


女「……ごめん、もう隠しきれないから言うけど、ピーちゃん逃がしちゃった。部屋出る時に気づかなかったんだけど窓開いてて、ケージも鍵開いてたみたい ほんとごめん」


男「……えっ、いやいやいや……お前、ピーちゃん大事に預かるって言ったじゃん」 


女「……本当にごめん、弁償する、お金とかじゃないのはわかってるけど」


男「弁償? 無理だよ! ピーちゃんはカオジロガビチョウだぞ!」


女「えっ何、そんなに値段高いの?」


男「違うよ! 特定外来生物! 外来生物法がもう制定されちゃったから新規で飼うことできないの! 何してくれてんだよ本当に」


女「……特定外来生物? え、ってことはどこで買ったの?」


男「法規制直前に海外からこっそり仕入れたんだよ、けど売るためじゃないよ? 可愛くて」


女「なんか全然申し訳なさが消えちゃった、耐えた〜〜〜〜バイバイピーちゃん! 生態系を荒らしに荒らして〜!」


おわり