練習帳

()内は省いて読んだらいい。

 

日本語(の上手さ、言語化と適切な言葉のチョイスのセンス。感性のするどさ、面白いと思えるものを見つけて上手いこと形にできる分だけすくい上げられる能力。これら)を強くしたい、ということで短歌の解釈をやってみる。(歌論のように、文脈がどうとか試みがどうとか難しいことはわからないし書きたくもないので、単純に)私がどう解釈してどういうイメージを持ってどこが好きか、というのを書く(下心としては短歌に興味を持つ人が増えればうれしい)


シロナガスクジラのお腹でわたしたち溶けるのを待つみたいに始発 上坂あゆみ

遠い海のイメージは珊瑚礁や沖縄に想定されるような刺してくる青ではなくて、薄暗い夜明けのような黒と青と緑が上手いぐらいに混ざったなんとも言えない微妙な色をしている。この句は空間を上手く限定している感じが好きで、最初は「シロナガスクジラ」の大きな体内にいるんだけど、いつのまにか「始発」電車の椅子の上にちょこんと座っているのを見ている感じになる。縮小されていく空間の感覚と、溶けるのを待っているという諦念ともとれる焦り、車窓の外の空はどこまでも始発前の微妙な色で、不穏さが刺さる。

 

天才じゃなくても好きっていったことごめんね きれいなドライフラワー 藤宮若菜

作中主体と作者は同一視しない方がよさそう、2人居て、たぶん恋人同士なんだろう。「天才じゃなくても好き」という言葉は優しさのようでいて、重たい烙印としても働く。相手を慰めるために無自覚に言った言葉が相手を傷つけたのかと思いきや、「きれいなドライフラワー」と締めくくられる。ドライフラワー、結局は枯れた(枯らした?)花なので、生命力のない(≒天才じゃない)イメージがここで重なる。生き方の違いなのかね、ただ一緒にいてくれれば幸せな人、自分の才能を追い求めたい人みたいな。解釈が多様に開かれていること、何となく感じるヒリヒリとした悪意(と言うには弱い?)が好き。

 

月面のようなえくぼだ夜の駅好きって言ったら届くだろうか 初谷むい

「月面」「夜」「えくぼ」「好き」「届く」と結構近い単語同士が並んでいて、たぶん誰が見ても同じような絵面が描けると思う。届くんだろうか……届くか届かないか、どちらだと思うかに鑑賞者の恋愛観みたいなものが反映される気がする。私は届かないと思います。月面は結局遠い存在だ、ということを伝えたくてこの人はわざわざ月面という言葉を選んだ気がする。えくぼを表そうと思ったら別に月面じゃなくていい、遠さを伝えたかったんだきっと(詩的に良いえくぼの比喩が思いつかなかったので弱い解釈です)

 

退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都 栗木京子

ただただ好き。和也が「さよなら京都を言いたいから就職は京都以外にしようと思ってるんです」ってゼミの先生に言ったの、粋すぎてずるいって思った。終わったり失ったりして初めて気づく有り難さみたいなものはある。失恋とか親の死とかでよく言及されるけど、大学の4年間の日々をこうやってまとめるところに潔さを感じる。京都駅のホームで新幹線を待っていて、ホームの外側に広がる街並みに懐かしさと心残りのようなものを少しだけ感じて、それでも結句の強さがある。今気づいたけど結構強い言葉が多いな、「素直に」「愛し」「さよなら京都」みたいな、思い切りの良さは体言止めからもわかる。京都住みたい、もちろんこれを言うために。

 

あるときは行方しれずの思慕に似て一般均衡理論 たそがれ 堀合昇平

意味云々というところを超えて、私の中ではこの句の音の響きが過去最高に好きです。「一般均衡理論 たそがれ」の固さと気の抜けた感じの対比、思慕と行方知れずという取り合わせも良い。歌詞なんだよな、印象的に。シーソーも連想される。小さくつぶやくごとに好きになる感じがする

 

降る雪は白いというただ一点で桜ではない 君に会いたい 鈴木晴香

桜の季節になると会える「君」のことを思うがあまり、雪は桜ではない、という正解だけど不正解な感覚を持ってしまっている恋心に良さを感じました。ペットボトルを見て「ハイパーヨーヨーじゃないな」ってなることないからな、例えダサすぎるだろ。着眼点とそれによる感情の持っていき方に上手さを感じる。「君に会いたい」の思い切りの良さも好きです。


しのぶれど色に出でにけるわたくしと飲む焼酎はおいしいですか 鯨井可菜子

本歌も好きですがこっちはもっと好き、いい女すぎる。こんなこと言ってくる人居たら即座に好きになる自信がある。強い女性だ、自信が満ち溢れている。軽くグラスを傾けて、一息ついて問いかけてきてるんだろうな。酒を飲んで赤くなると「顔赤いじゃん可愛い〜」って言われる友達に嫉妬する、全く色変わらない女の子の心情も良くない? 良いです。赤くなる男は見苦しいので……

 

いくつもの手に撫でられて少年はようやく父の死を理解する 木下龍也

言葉の選択が正しいかわからんけど、いくつもの手という複数性から一転して「父の死」に孤独に向き合わなければならない少年の心を思うと苦しいものがある。成長の歌でもあるんだろうけど。切り取り方が上手いので好きです。

 

もうそこにサヨナラという語があって一問一答式の夕暮れ 俵万智

俵万智の恋愛観は少女性と同居する形で大人の論理を持っている気がする。別れが単なるデートの終わりなのか、それとも失恋なのか、どちらを予期しているかはわからんけどサヨナラしたくない気持ちだけは「一問一答式」と捉えているところからすごく伝わる。用意されていたサヨナラ、というのもね、気持ちのすれ違いがあるのかもしれない。


僕もあなたもそこにはいない海沿いの町にやわらかな雪が降る 堂園昌彦

この感覚すごいわかる。電車の中から無数の民家を見る度に、そこに在るだろう生活の記憶と過去と未来とを想起されて、しかし私の人生とは永劫交わることがないんだろうな、という空漠たる気持ち。世界はなんだかんだ広いので、自分が経験できる/会える対象は限りなく少ない。そんな町にもせめてやわらかな雪が降ってくれよ、というのはある意味で無上のやさしさだと言える気がする。


終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて 穂村弘

切り取り方が好きなやつ。不穏さがいいよね、取り囲まれて、って書くセンスは私にはない。確かにアレ紫だ、「終バス」も最後まで読んで立ち返るとちょっと怖くなる。誰が降りますランプ押したんだろう、押されてないんかね、バスエアプかも。終点だと勝手に押される? だとしたら追い出されるような感覚だな。

 

おわり 長かった。たのしい。語彙力、むしろ減ったまである。解釈に正解も不正解もないから自由に書けるが、自分の好きな種類を集めるとそれを解釈する言葉の方も似通ってしまって、さっきもこの言葉使ったから言い換えたいな、で時間食った。恋愛の短歌を読んでも相手欲しいとはならないし、始発に乗りたいとも思わない。だけど日常の出来事を少しづつ肯定できるように、面白がれるようになることが良さだと思います。彼女欲しいとは思わんがデートはしたい、しのぶれどお姉さん具現化されてくれないだろうか。赤レンガのクリスマスマーケットとか行きたい。ベタすぎる。ベタをするのも強さだと最近学んだ、なりふり構わない強さ。

 

レシートを畳むあなたの指の毛を白く照らして春の訪れ

夏の訪れの時期なんだけどな、私は自分で作った中ではこれが上位に好き。ひかりの捉えが上手くいった。