短歌タイムカプセルから好きだった短歌

生前という涼しき時間の奥にいて あなたの髪を乾かす遊び

老けてゆく私の頬を見てほしい 夏の鳥影揺らぐさなかに

塗り絵のように暮れてゆく冬 君でない人の喉仏がうつくしい 大森静佳

立入禁止区域に星を戴いて もう産まなくていいよ牛たち 佐藤弓生

君は君のうつくしい胸にしまわれた 機械で駆動する観覧車

君が愛して兎が老いたら手に乗せてあまねく蕩尽に微笑んで 堂園昌彦

君に逢う以前の僕に遭いたくて海へのバスに揺られていたり

千年の昼寝の後の夕風に座敷よぎりてゆく銀やんま

ひとひらのレモンをきみは とおい昼の花火のようにまわしていたが 永田和宏

人はみな慣れぬ齢を生きている ユリカモメ飛ぶまるき曇天

輪郭がまた痩せていた 水匂う出町柳にきみが立ちいる

ああそうか日照雨のように日々はあるつねに誰かが誰かを好きで 永田紅

三月の真っただ中を落ちてゆく雲雀、あるいは光の溺死

あなたの眠りのほとりにたたずんで生涯痩せつづける競走馬

雪は花に喩えられつつ降るものを 花とは花のくずれる速度 服部真里子