しかし忘れたい備忘録

一連の読書から得た感情の記録

言語化を試みた時点で正確ではないがいつか見返すであろう自分のために残す 文体とか影響されてるかも

 

約1週間で14冊の小説を読んだ。森博嗣によるS&Mシリーズ10冊と、四季シリーズ4冊。内容は時折抽象的で、なにかを示唆していると読めたが今の私には理解できなかった点が多くあった。

 

ミステリーとして謎解きを作中人物と共にしていくのも可能なんだろうけど、少なくとも自分には解けないのが殆どだったし、それよりもキャラクターたちの関係性を追っていったほうが楽しめた。犀川と萌絵、四季の関係が特に。あとは哲学と人生論と近未来的な世界観、それらを全て俯瞰して自在に飛びまわるような知性の顕現としての四季の魅力。未来の描写が好き。

 

とりあえず各作品の感想

 

すべてがFになる
1作目として完璧だったと思う 伏線が多く張られていたというのは勿論後からしか分からないけど、その時は意味を考察するにも至らなかったことが後々重大なヒントになっていると思うと作家の凄みを感じる。The perfect insider 

「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」という犀川の言葉に優しさを感じた


冷たい密室と博士たち 

情愛とその縺れが人間を間違わせるって話だったと思う、違ったらごめん。タイトルがいい Doctors in Isolated room 


笑わない数学者
タイトルからして読者への挑戦な感じがする作品だった。最後まで謎を提示してくれるの楽しい。

「人間の最も弱い部分とは、他人の干渉を受けたいという感情だ」が共感できた。お節介な人も単に他人に干渉したいというよりか見返りとしてのコミュニケーションを求めてるんだろうなっていうのと合う。しかしそれを隠そうと思うと他人に干渉しない孤独な生き方になる、それは普通の人間にはできない Mathematical goodbye 英訳本当にこれなんだろうか 


詩的私的ジャック

このシリーズ全体に言えることだけど、個々の謎解き部分は非常に人間的で、それは動機やその後の行動を俯瞰してとらえた場合の感覚なんだけど、四季と比べるとトリックすら凡庸に思われるので読む順番が大事。「明後日までは、とても待てない」が言葉として凄く綺麗で泣きそうになった、瑞々しい愛情表現。Jack the poetical private タイトルこっから西尾維新みたいだよね


封印再度

解けるかい、っていう思い出。こっから私は頭を切りかえて、ミステリーじゃなくストーリーを楽しむようになりました。おかげでサクサク読めた。タイトルいちばん秀逸な気がする、勿論英題の Who insideとかかってることを踏まえて。これと次作は人生観(死生観?)が主題になっていたと思う。興味はあるけど、手を出すには私はまだ精神的に若すぎる Too young too die的な

幻惑の死と使途

マジシャンズデッド。名前のために死ぬ、名前のために生きる。そういう意味で言葉に強くフォーカスされた作品だった。他人を認識する上では名前に依存して、他を認識する上では名詞に依存するので、自分の生きがいをそれに費やすのもわかる。しかしやはり私はそれ理解するには若すぎる。Illusion acts like magic 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない 


夏のレプリカ
四季 夏のレプリカだったのだと捉えた。キャラクターの心情にだいぶ感情移入して読んでたから、全てを察した時の萌絵の描写で心がしんどくなった。チェスのシーン、感情のすれ違いがそのまま2人の人生を暗示しているようで悲しい。Replaceable summer 無理だろ


今はもうない

いちばん好き。本筋では全然なかったけど、この作品で自分の好きな世界観(描写?)がわかった気がする。小中学生の頃に読んだブーン系で近未来と愛する人の死を軸にした話があったけど、その時からじわじわと好きだったんだろうなって感じ。

「それらの音も、光も、少年の思い出とともに、地球上のすべての大気に飛散し、拡散し、消散して、今はもうない」 

現在を起点にするとこれは消えてしまったものへのノスタルジーになるんだけど、今これを書いてる私もいつか過去になるわけで、つまりは消えてしまうんだっていうどうしようもない現実がある。だから歳をとると政治や宗教、あるいは教育といった、自分の死後も(しばらくは)残るであろう概念に人は夢を見るんだろうし、類型の中に夢を見るんだと思う。子どもの人生を自分の人生の類型として捉えるとそうなる。Switch back

 

数奇にして模型

犯人サイコすぎて理屈とかじゃなかった気がする。道徳はすなわち馬鹿な教育者でも教えられるほどに単純化されたルールっていうのが印象深かった。そういう意味では今回の犯人の思想は本来の意味で人間的だったともとれるけど、外部刺激に反応するだけの行動と見分けがつかないので個人的にはパスで。Numerical models 

 

有限と微小のパン

シリーズ最終作。長かった 読むのに半日かかった。しかし最終作じゃない罠。四季シリーズを読んだ後に思い返すと、四季の孤独が描かれていたとわかる。それすら超克していたと思っていたから、人間らしい話だった。海辺で歩きながら対話する犀川と四季のシーンの美しさはいちばん良かった。有限の現実と微小の虚構の違いは煙草が吸えるか吸えないかの違いに比せる、きれいな終わり方だった。

 

四季シリーズ 春夏秋冬

ずっと哲学だったな、というざっくりとした感想。なので以下の感想も哲学なものにしかなり得ない。というかそれを求めてこれまで記録を書いてきたし、読んできたわけだし。いつかの自分がそれを完成(あるのか?)させることを望んでいるからとりとめもないことを留めたわけなので、訳の分からなさは必然。こっからがガチ感想スーパーポエムタイムだ。

 

10年前くらいに読んだ『歩くようです』の印象とその風景と世界観が、今なお自分の中で残っていて、心象風景の基盤を成していると思う。思えば似た話で、あちらでは天才科学者の主人公が核戦争後の世界(1000年後に飛ぶ)をただただ歩いていくというストーリーだったけど、読み取ったテーマがほとんど同じ。自分と、自分が愛した物や世界の痕跡を辿りながら、俯瞰する知性が喜怒哀楽を知っていく話。幾分こちらの天才の方が人間らしい感情に乏しかったようだけど、それも最後でひっくり返った(かもしれない)。

 

日常の小さな諍いで自分の気持ちが落ち込んだり、あるいは人生そのものの見通しが立たなくなったりして苦しく感じる経験があるが、そんな感情も出来事も全て時間が十分に経てば綺麗さっぱり消えてしまう。しかしその時には自分すら無くなるので、自分の生の中でそうした感情を割り切るためには人生訓のような依存できる思想に頼らざるを得ない。

 

場所も記憶も人も風景も過去も全てが消え去って、今自分が認識する物が何も無くなってしまっても続いていく世界、それに対して抱くのは今の自分の感情の裏面ではないか。反転と消失が似ている感覚で、幸せは反転したら不幸になって、消失しても不幸になるようなイメージ。消失は死に近いんだけど、上記のことを考えると単純に暗いだけの概念じゃなくてある種ポジティブな要素も持っていると思う。

 

他人との差異、共通点を探しながら生きていく上では、自分を捉える営みが出発地点になるんだけど、そもそも自分というのが他人との差異からしか発生しない概念と考えられるので(人間という言葉が表している通り)、他人を知ることでしか自分を理解できないという事態が起こる。それは何ら問題にするほどではないんだけど、与えられた時間はそれを無視するには長すぎる。解決するには短い。